筋肥大が自然に鈍るのは筋肉自身のフィードバックによる
要点
組織力学と細胞内シグナル伝達を同時に計算した多階層モデルによると、筋肥大が際限なく続かないのはタンパク質合成と筋サイズのあいだにあるフィードバックのためだ。筋肉が大きくなるほど同じ負荷が生む機械的刺激の密度が下がり、IGF1-AKT-mTOR-FOXO経路のシグナルが自ら低下して成長が収束する。同じ負荷プロトコルでも筋肉の幾何学的形状が違えば肥大の程度は変わり、この形状とシグナルの結合が局所的なシグナルのばらつきを緩衝して成長を滑らかに保った。
成長が止まると、たいていはプログラムか努力のせいにされる。このモデルの答えは違う。成長そのものが成長を止める構造が筋肉のなかにあるという。タンパク質合成が筋肉を大きくし、大きくなった筋肉がシグナルを下げる。
なぜ同じ重量では大きくならなくなるのか?
筋肉が大きくなると、同じ外部荷重が生む組織内部の機械的刺激は薄まる。モデルはこの刺激をIGF1-AKT-mTOR-FOXOシグナル伝達系につないでおり、刺激が薄まれば合成側のシグナルが下がり、分解側を司るFOXOとの均衡が取り直される。著者らはこのフィードバックが際限のない成長を防ぐと表現している。
実務的にはおなじみの話だ。同じ負荷を保てば反応は収束する。違うのは理由で、適応の枯渇ではなく負荷とサイズの比である。重量を上げるか刺激の性質を変えることで、曲線がふたたび動く。
このモデルは何を計算したのか?
組織レベルでは筋肉を横等方性超弾性体として扱い、線維方向とそれ以外の力学を区別した。細胞レベルではシグナル伝達経路を常微分方程式系として解いた。両者をつなぐのが成長テンソルだ。シグナルの時間変化が成長テンソルを決め、成長テンソルが筋横断面積の変化を生む。だからこのモデルは一回のセッションではなく長期的な適応をシミュレートできる。
同じプログラムで結果が分かれる理由は?
著者らはVisible Humanデータセットから取った実際のヒト筋形状を入れて回した。同じ負荷プロトコルでも、筋肉の幾何学的形状が違えば肥大の程度が変わった。同じプログラムで結果が分かれる理由の一部は努力ではなく、持って生まれた筋肉の形だということになる。
もうひとつ興味深い結果がある。形状とシグナルの結合が局所的なシグナルのばらつきを緩衝した。筋肉のある一点でシグナルが跳ねても、全体の形状変化は滑らかに保たれる。筋肉がでこぼこに育たない理由を力学で説明したことになる。
これはヒトを対象にしたトレーニング試験ではなく計算モデルである。検証された予測ではなく、予測を生み出すための枠組みとして読む必要がある。
ビッグ3の記録にはどう表れるか
フィードバックのある系は直線では伸びない。序盤は速く、後になるほど緩やかになる曲線が正常だということであり、数週間単位でマッスルインデックスを比べればほぼ必ず落胆する。四半期単位で見れば同じデータが違って読める。
そして筋サイズと記録が同じ速度で動かないことはすでに知られている。mTORC1はボリュームのつまみではないと筋力は筋量より速く伸びると並べて見れば、今回のモデルはサイズ側の曲線がなぜ自然に寝るのかを説明する断片だ。
よくある質問
筋肥大が際限なく続かないのはなぜか?
タンパク質合成と筋サイズのあいだにフィードバックがあるためだ。筋肉が大きくなると同じ負荷が生む機械的刺激の密度が下がり、それに応じてIGF1-AKT-mTOR-FOXO経路の成長シグナルが自ら低下して成長が収束する。
このモデルはどのように筋肥大を計算したのか?
組織力学は横等方性超弾性モデルで、細胞内シグナル伝達はIGF1-AKT-mTOR-FOXO経路の常微分方程式系で解いた。両者は成長テンソルで結ばれ、シグナルの時間変化が成長テンソルを決め、成長テンソルが筋横断面積の変化を生む。
同じプログラムでも人によって結果が違うのはなぜか?
Visible Humanデータセットの実際の筋形状を入れてシミュレートした結果、同じ負荷プロトコルでも筋肉の幾何学的形状が違えば肥大の程度が変わった。形状の差が成長幅の差の一因だということになる。
停滞したら重量を上げればよいのか?
モデルの論理に従えばそうなる。筋肉が大きくなるほど同じ荷重の刺激密度が下がるため、負荷を上げるか刺激の性質を変えることで成長シグナルが戻る。ただしこれは計算モデルの予測であり、ヒトを対象としたトレーニング試験の結果ではない。
この研究をそのままトレーニング処方に使ってよいか?
使えない。これはヒトを対象としたトレーニング試験ではなく多階層の計算モデルである。トレーニング設計の仮説を立てて検証する枠組みを提供する研究であって、検証済みの処方を示した研究ではない。
出典: PubMed