筋肥大と筋力の相関 r=0.92 — ただしこの数字は盛られている
要点
筋肉が大きくなれば強くなるという関係は、トレーニング歴が積み上がるほど明確になる。初心者では筋肥大が筋力増加を説明する割合は低く、熟練者では70%程度まで上がる。最近の研究は初心者でも r=0.92 を報告したが、これは反復測定相関という手法による値で、同じ手法は実際には関係のないデータでも0.83のような値を生み出す。
筋肉の大きさと筋力が関係することに異論はない。争点はどれだけかであり、最近の研究がその数字を大きく揺らした。
これまでの図式
研究は一貫した図式を描いてきた。完全な初心者では筋肥大と筋力増加の関係は非常に弱い。トレーニング歴が積み上がるにつれて関係は強まり、熟練リフターでは決定係数が0.6〜0.7に達する。筋肥大が筋力増加の分散の約70%を説明するということだ。
理由は直感的だ。初心者の初期の筋力増加はほとんどが技術と運動学習から来る。初心者を対象とした研究の平均は筋量5%増に対して筋力22%増。筋肥大が因果的に寄与するとしても、この集団で説明できる分は最大でも4分の1に届かない。歴が伸びれば技術から引き出せる余地が減り、その分だけ筋肥大の説明力が上がる。
図式をひっくり返した研究
Marques らの研究は初心者39人が15週間の下半身トレーニングを行った結果を扱った。大腿四頭筋の体積をMRIで、筋力を等尺性トルクとレッグエクステンション1RMで測定している。平均で等尺性筋力が21.6%、1RMが28.6%、大腿四頭筋体積が12.7%増えた。
肝心なのは相関値だ。反復測定相関では等尺性筋力で r=0.92、1RMで0.89。一方、同じデータの被験者間相関は0.35〜0.60だった。前者で読めば筋肥大が筋力増加の分散の80〜85%を説明し、後者で読めば12〜35%になる。同じデータで手法を変えただけで結論が変わる。
なぜ手法でここまで変わるのか
被験者間の比較には個人差が混ざり込む。同じ大きさの上腕二頭筋を持つ二人でも、付着位置が有利で単位断面積あたりの張力が高い側は同じ5%の肥大で20%強くなり、もう一方は10%にとどまることがある。こうした人が20〜30人集まると、集団レベルでは関係が弱く見える。個人の内側では強い関係があってもそうなる。反復測定相関はこの固定的な個人差を取り除こうとする試みで、その発想自体は妥当だ。
それでも数字をそのまま信じてはいけない理由
反復測定相関は変化量の変動係数に非常に敏感だ。筋力と筋肥大の変化量は、標準偏差が平均と同程度になることが多い。平均筋力増加が10kgなら標準偏差は5〜15kg程度ということだ。二つの変数がどちらも正の方向に動き、変動係数が0.5〜1.5の範囲にあると、実際には何の関係がなくても0.65〜0.85程度の反復測定相関が出うる。
原著者はこれをシミュレーションで示した。二つのダミー変数を互いにまったく無関係にランダムに増加させただけで、反復測定相関は0.83になった。同じデータで通常のピアソン相関は関係がないことを正しく示している。
反復測定相関の r=0.8 は、文字通りにはピアソン相関の r=0.8 と同じことを意味する。しかし一方の変化がもう一方の変化をどれだけ予測するかについては、まったく違う含意を持つ。
まとめ
- 筋肥大は初心者の筋力増加にも従来の研究が示唆したよりは寄与している可能性が高い。
- ただし r=0.9 が通常含意するほど強い関係ではない。
- 今後、論文で反復測定相関を見たときは、その値を通常の相関係数のように読まないこと。
筋力スコアの読み方
相対筋力スコアはビッグ3の1RMから計算される筋力の指標であり、この研究はその読み方に直結する。始めて間もない時期はスコアが速く伸びる一方で鏡は変わらないことがある。初期の上昇の大部分は技術であって筋肉ではないからで、それは正常だ。逆に歴が伸びるほど、スコアをさらに上げるために必要なものは筋肉側へ移っていく。同じ期間の体重とビッグ3を並べて記録しておけば、いまの上昇がどちら由来かがずっと見えやすくなる。
よくある質問
筋肉が大きくなれば必ず強くなるのか?
関係はあるが比例はしない。初心者では筋肥大が筋力増加を説明する割合は低く、熟練者では70%程度まで上がる。初期の筋力増加の多くは技術と運動学習から来る。
初心者は筋量と筋力がどれくらい増えるのか?
初心者を対象とした研究の平均は筋量約5%増、筋力約22%増。最近の15週間の下半身研究では大腿四頭筋体積が12.7%、1RMが28.6%増加した。
r=0.92 という相関値は何を意味するのか?
反復測定相関という手法で計算された値だ。同じデータの被験者間相関は0.35〜0.60で、反復測定相関は変化量の変動係数に敏感なため、関係のないデータでも0.83程度の値が出うる。
強くなるには筋肥大と技術のどちらを優先すべきか?
段階による。初心者の段階では動作技術と運動学習から得られるものが最も大きく、歴が伸びて技術の伸びしろが減るほど筋肥大の比重が上がる。