研究

1年の筋力トレーニング後、70代の脳は力を切る信号から変わった

要点

70歳以上の成人20人が12か月のレジスタンストレーニングを終えた後、306チャンネル脳磁図で測定した運動後ベータリバウンドの振幅が約107%増加し(P=0.003)、リバウンドのピークまでの時間が約1.49秒から1.27秒へ短縮した(P=0.039)。長期間レジスタンストレーニングを続けてきた群は、力を抜くまでの時間の変動が小さかった(P=0.021〜0.027)。レジスタンストレーニングが変えたのは筋力だけでなく、感覚運動処理の効率と力の調節の一貫性だった。

筋力トレーニングが筋肉を育てることは議論の対象ではない。この研究が見たのは別の側だ — 1年の訓練で脳が運動を処理する仕方そのものが変わるか。答えは変わった、であり、最も大きく変わったのは力を出す瞬間ではなく力を切ったあとだった。

対象は70歳以上の成人である。設計は二本立てで、長期間レジスタンストレーニングを続けてきた10人と非訓練者8人の横断比較、そして20人が12か月のレジスタンストレーニングを行う縦断介入だ。測定は磁気シールドルーム内で306チャンネル脳磁図(MEG)により行われた。

何をさせたのか

MEG内で使えるよう作られた専用ダイナモメーターで、まず片側の足関節底屈の最大筋力を測定した。次に画面に最大筋力の15%と50%にあたる目標線を表示し、参加者はできるだけ速く正確にその線まで等尺性に力を上げ、できるだけ速く力を抜いた。各強度で30試行ずつ実施している。

50%試行は筋収縮由来の磁気アーチファクトが大きすぎてMEG解析に使えず、15%試行のみがベータ帯域(10〜30Hz)の解析に入った。この制約は結果を読むときにそのまま踏まえる必要がある。

12か月後にベータリバウンドが倍以上になった

ベータリバウンドは、運動が終わったあとに感覚運動皮質のベータ活動が戻って跳ね上がる信号だ。一般にいま行った運動の感覚情報を処理する過程の指標として解釈される。

12か月のレジスタンストレーニング後、この信号が大きく変わった。ベータリバウンドの振幅が約107%増加し(P=0.003)、ピークまでの時間が約1.49秒から1.27秒へ短縮した(P=0.039)。より大きく、より速い戻りである。

長期訓練者と非訓練者の横断比較でも方向は同じだった。ピーク到達時間は約1.27秒対1.57秒だったが、有意性には届かなかった(P=0.083)。標本が10人と8人であることを考えれば驚くことではない。

長期訓練者は「力を抜く時間」がぶれなかった

行動指標で目立ったのは筋力の大きさではない。長期間レジスタンストレーニングを続けてきた群は力を抜くまでの時間の変動係数が低かった(P=0.021〜0.027)。毎回ほぼ同じタイミングで正確に切っていたということだ。

この組み合わせが著者らの結論を作る。短期でも長期でも、レジスタンストレーニングは感覚運動処理の効率を高め、力の変動を下げる方向に働いた。最大筋力ではなく、力を扱う精度の話である。

標本は非常に小さい — 横断が10人と8人、縦断が20人だ。動作は足関節底屈ひとつだけで、MEG解析に使えたのは最大筋力の15%試行のみである。ここで得られた脳信号の変化をスクワットやデッドリフトへそのまま置き換えて読むべきではない。筋力トレーニングと認知機能の根拠は筋力トレーニングと高齢期の認知機能に別途まとめてある。

1RMが測らない能力

1RMはどれだけ大きな力を出せるかだけを測る。この研究が触れたのはその反対側だ — どれだけ正確なタイミングで力を入れ、どれだけ一貫して抜くか。実際のリフティングではこの能力は最大重量ほど目立たないが、結果には常に介入する。セットアップでいつ張力を作るか、下降をどこで受け止めるか、ロックアウト後にいつ抜くか、すべてこの範疇だ。

年齢が上がるほどこの区別が重要になる。60代・70代のリフターの実質的な問題は最高記録ではなく、同じ重量を毎回同じ質で扱えないことである場合が多い。この研究はそのぶれが訓練で減りうるという方向の証拠を加える。年代に応じた調整は50歳以降も強く鍛えるにある。

マッスルインデックスはビッグ3の1RMに体重・性別・年齢・身長の補正をかけて出る値なので、ここで測られた精度はスコアに直接は入らない。ただ実戦ではこう現れる — 同じ1RMを持つ二人のうち、セッションごとの記録がぶれない側が次の記録を先に更新する。トレーニング日誌に最高記録だけでなく、同じ重量を扱った日のばらつきも残しておく理由がここにある。

よくある質問

レジスタンストレーニングは脳の運動制御を変えるか?

この研究では変えた。70歳以上の20人が12か月のレジスタンストレーニングを終えた後、306チャンネル脳磁図で測定した運動後ベータリバウンドの振幅が約107%増加し(P=0.003)、ピークまでの時間が約1.49秒から1.27秒へ短縮した(P=0.039)。

ベータリバウンドは何を示す指標か?

運動が終わったあとに感覚運動皮質のベータ帯域活動が戻って跳ね上がる信号で、いま行った運動の感覚情報を処理する過程の指標と解釈される。振幅が大きくピーク到達が速いことは、処理がより効率的である方向として読まれる。

長期間訓練してきた人は何が違ったのか?

力を抜くまでの時間の変動係数が低かった(P=0.021〜0.027)。毎回ほぼ同じタイミングで正確に力を切っていたということだ。ベータリバウンドのピーク到達時間は非訓練者に対し約1.27秒対1.57秒だったが、有意性には届かなかった(P=0.083)。

この結果をスクワットやデッドリフトにそのまま適用できるか?

そのままでは難しい。測定動作は片側足関節底屈ひとつだけで、脳磁図の解析に使えたのは最大筋力の15%試行のみだった。標本も横断10人・8人、縦断20人と非常に小さい。

1RMだけを記録すると見落とすものがあるか?

ある。1RMはどれだけ大きな力を出せるかしか測らず、いつ力を入れどれだけ一貫して抜くかは測らない。この研究が扱ったのは後者であり、年齢が上がるほど最高記録よりセッション間のばらつきが実質的なボトルネックになることが多い。

出典: PubMed

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